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幸せのヒント

感謝の弊害

最近、ずっと気になっていることがあります。

それは「感謝」について。

「感謝しましょう」「感謝すれば運がよくなります」と、よく言われますよね。

私独特の感覚かもしれませんが、感謝にあふれている方はキラキラしていて、そのキラキラを身にまとっている方は、周りにもいい影響を与え、問題が起こっても軽々と乗り越えていかれるように見えます。

実際に、私自身も自責や他責をやめて、すべての出来事に感謝できるようになったとき、世界の見え方がガラッと変わりました。
人間関係、仕事、収入……すべてが好転しはじめたのです。

自己啓発系やスピリチュアル系の本、YouTubeなどでも「感謝の大切さ」はよく語られています。
小林正観さんの『ありがとうの神様』なども有名ですよね。

私は「今の感情が未来の自分を創る」と信じています。
だから、今「感謝」の感情で自分を満たしていれば、感謝したくなるような出来事が未来に必ず起こると感じています。

「感謝」という感情は、間違いのない未来の自分への保険のようなもの。

でも、そんな「感謝」にも、実は弊害があるように思うのです。

「感謝しなきゃ」に縛られている人たち

前述したように、「感謝しましょう」とあまりにも言われすぎているがゆえに、
「感謝しなければ」と無意識に自分を縛ってしまっている方が多いように感じます。

私は人の悩みを聞くことを仕事にしています。
お悩みを話していただいたあと、私が何か言う前に「今は感謝しています、大丈夫です」とご自身で締めくくられることがあります。

けれど、「感謝であふれている方」にはキラキラとした雰囲気のようなものを感じるのに、
そのようにおっしゃる方からは、全くキラキラが感じられない。
むしろ、どんよりとした重い空気感が漂っていることもあります。

たぶん、心からは感謝していない。
「感謝しています」と言えば救われると思って、
辛い気持ちにフタをして、自分の本音を見ないようにして、無理をしている。

そういう方を見ていると、空気がどんどん重たくなって、私までしんどくなってしまうことがあります。

私がいつも思うのは――
一度、自分の気持ちに正直になって、自然に感謝の気持ちが湧くようになってから「感謝しています」と言った方がいいということです。

感情が癒えるプロセス

辛い出来事が起こったとき、心の傷が癒えていくには段階があります。

① 辛い出来事に茫然自失となる。何も感じられず、感覚がマヒしている。
② 辛い出来事を自分のせいだと思い、自責する。
③ 辛い出来事を他人や環境のせいにして、他責する。
④ 辛い出来事を自ら誰かに話したくなる。話すうちに、少しずつ気持ちが和らいでいく。
⑤ その出来事に感謝できるようになり、「この体験を誰かのために役立てたい」と考えるようになる。

①〜④までは誰もが通るプロセスで、⑤に至らない人もいます。

とても大切なのは、②や③の段階で「自責」や「他責」の感情をしっかり感じきること
この感情を十分に味わい、吐き出すことができて、はじめて④へと進むことができます。

逆に、②③で感情を感じきれないままだと、④に進めずに②③を延々と繰り返すことに。
いわゆる「自責と他責のループ」です。

②③の時期には、自分を否定しない人に少しずつ話を聞いてもらうと、④に進むスピードが早まります。

「感謝しています」と言いながら、感謝できていない

私が感じている「感謝への違和感」は、
②③にいるにもかかわらず、「感謝しています」と口にしてしまうことにあります。

とても辛い状況の中で、
本当はとても感謝なんてできない状態で、
「感謝しています」と言う。

それは、「感謝しないと運が余計に落ちるから感謝しなきゃ」
「波動が下がるから感謝しなきゃ」
「感謝したら救われるから」という“義務感”からきていることが多いのです。

これ、未来の自分に影響しますよ? 危険ですよ?

感謝を「叶えるための手段」として使うと、
無意識レベルでは「足りない自分」を前提にしていることになります。

実際は感謝していないのに、
「感謝しないといけない」という信念で、必死に感謝しようとする。

「感謝しなければ」とあがけばあがくほど、
言葉とは逆の現実を引き寄せてしまいます。

つまり、
「私は感謝できていません。だから運が落ちます」と宣言しているようなものなのです。

自分の本音に寄り添うことから始めよう

②③の中にいる人がまずやるべきことは、
自分の素直な感情にフタをせず、感じきることです。

蓋をされた感情は、数年後に病気やトラウマ、ネガティブな影響として表れることもあります。

できるだけその場で感情を感じきり、
「本当はどうしたかったのか」を言葉にして吐き出した方がいい。

「寂しい」
「悔しい」
「大事にされたい」
「どうして私だけ」
「お金がもっとほしい」

感謝する前に、思いっきり心の叫びを外に出した方がいい。

気持ちを整理し、吐き出すことで、
出来事を少し俯瞰できる余裕が生まれます。

「自分は本当は○○したかった人なんだ」
「○○は自分に合わない人だったんだ」――
と気づくことで、自分の本当の価値観が見えてきます。

本当の価値観を知れば、これからは自分に合わないことを自然と避けられるようになります。

感謝よりも大切なこと

ネガティブな自分を否定して、無理に「感謝のふり」をするよりも、
ネガティブな自分をそのまま受け入れて「辛かったんだね」と自分に寄り添う方が、はるかに健全です。

自分をまるごと認めて受け入れること。
それが“セルフラブ”。

本音にフタをして、無理に違う感情を上書きしようとすること。
それは“セルフネグレクト”です。

自分の子どもや、大切な人に置き換えて考えてみてください。

学校で嫌なことがあって、泣きそうな顔をして帰ってきたとき、
「いい経験だったね。感謝しなさい」なんて言いますか?

きっと、
「何があったの? 話してごらん」
「泣いていいよ。一緒に考えよう」
と声をかけるはずです。

その“優しさ”を、自分自身にも向けてほしいのです。

「私はこのままでいい」
「無理しなくていいんだ」

この安心感こそが、未来の“安心できる現実”を呼び込みます。

感謝は、心が癒えた“その先”に自然と生まれる

ステップ④まで心が癒え、少し元気になってきた頃。

「この出来事があったから、友達のありがたさを知れた」
「この出来事があったから、〇〇さんは私に合わない人だと気づけた」

こんなふうに自然と「おかげで」の視点が生まれることがあります。

この“自然に湧いてきた感謝”にフォーカスすると、未来が驚くほど変わっていきます。

「ありがとう」は、言い聞かせるものではなく、心からあふれるもの。

その感謝が、自分の人生をやさしく照らし、次の現実を変えていく力になると思うのです。

石田由起子